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真夜中の友人達
世の中には変わったブログのページがあるものだが、ぼくのブログほど変わったものはないだろう。なんせ、幽霊ー人間共同執筆。戦争で学校を卒業できなかった幾人もの若者達の霊が、3年前の夏からぼくのパソコンに居座った上に、去年からブログをはじめていたのだった。
それも、今日までの話だ。今夜、卒業式が終われば彼らはどこかに帰っていくらしい。

「うわっ!!」
夕飯を終えて部屋のパソコンを立ち上げると、<ぎゃー>という大きな音量と共に、画面いっぱいに陽子の写真がフラッシュして、ぼくはまた腰を抜かした。
「ったく、へたれなんだから・・・・・・」
陽子が声を上げて笑いながら画面から身を乗り出してくる。
「うるせー」
ぼくは、目に涙まで浮かべて抗議した。ぼくと同い年で死んだという彼女のいたずらには、どうも慣れることができない。いくら予想して身構えていても、彼らの死んだ時の写真をいきなり見せられたり、チンチンをさわっている最中にいきなり目の前に出てくれば誰だってびっくりする。まして、戦争中に亡くなった彼らは、どこかに深い傷を負っていて血だらけなのだ。
「なによ。どうしたの?また振られたの?」
ぼくの不機嫌な声に陽子は驚いて、マウスを握っているぼくの手の上に彼女の手を重ねてくる。あいかわらず、凍りつくような冷たい手だ。
どういうわけだか、たくさんいる若い幽霊たちの中で、陽子だけがネットの世界とぼくの部屋を行き来できるようだった。ほかの幽霊たちは、ネットの世界、つまり、モニターの向こうの世界から出て来れないのだ。
「あ、わかった。もう、会えなくなるんで寂しいんでしょ?」
「うるせーなあ。ようやく解放されるんでセイセイする。これから自由にエッチなサイトも見れるし」
ぼくは、陽子の手を振り解くと、涙を見られないように顔を横に向けて答えた。自分でもびっくりするほど荒げた声に、陽子は急に笑顔を消すと目を落とした。
「最後のお別れを言いに来たんだけど・・・・・・。もう、卒業式がはじまるから行くね。元気でね」
恨めしげな声で彼女は言う。
「ああ、そっちもな」
「机の上のお薬、飲まなきゃダメよ。飲んで病気を早く直さないと彼女ができないわよ」
「うるせえ。さっさと行けよ。もうくんな」
ぼくは、思いっきりぶっきらぼうに返事してしまった。そして、それをすぐに後悔した。彼女とは、もう2度と会えなくなるのだ。
彼女と過ごした3年の日々。出会いは、あまりにも唐突すぎた。というか、チャットしてた相手が幽霊だったなんて、絶対、ありえない話だ。いまでもこうして陽子と話をしている自分が信じられない。
この3年の間、陽子とはいろんな話をした。幽霊だって、その辺の同じ年の娘と変わらないんだ。でも、もうそれもおしまい。

<元気でな>ぼくはそうつぶやいて、パソコンのブラウザーをリロードすると、ブログのコメントの欄は常駐する何人もの幽霊たちの書き込みで一杯になった。彼らの書き込みは、いつだって真剣だった。もう、パソコンがオーバーヒートしそうなほど熱かった。そして、それらを読むのに、毎日、長い時間をとられた。でも、それも、もうおしまいだ。明日になれば、彼らのコメントが書き込まれることもない。<いいかげんヘタレを克服しろ>彼らのコメントを読んで、ぼくは、また出てきた涙を拭った。

陽子の声が遠ざかって、いつの間にか、ブログのページには、たくさんの幽霊たちが立ち並ぶ体育館の動画が貼られていた。画面の片隅の動画のスタートボタンを押すと、『蛍の光』が流れてくる。お盆の時期にこの曲を聴くのもヘンな感じだ。しかし、画面から見える卒業生たちは、小学生から大学生までと年齢はばらばらなものの、みんなが真剣な顔でじっと歌に聞き入っている。この中にぼくのブログのコメントの常連もいるはずだ。だけど、だれがそうなのかはわからない。
いつもなら、草木も眠る丑三つ時を過ぎて、彼らの書き込みが活発になるころに体力の限界を感じてネットから落ちていた。しかし、今日は最後まで彼らに付き合うつもりだ。
『蛍の光』が終わると、卒業証書授与、 優等賞並びに文化・スポーツ功労賞授与。 校長から一人一人卒業証書を受け取る時、彼らはカメラに向かって頭を下げた。いったい、何人の人間が、この瞬間に、幽霊がたくさん映ったこのブログのページを見ているのだろうか。立ち並んだ卒業生のうちの女性の大部分が、卒業式そっちのけで抱き合い涙を流していた。シクシク、シクシク。まったく、女の幽霊には涙がぴったりだ。
全員が卒業証書を受け取ると、校長の祝辞。そして、卒業生代表の挨拶。卒業生代表は、学生服を着た角刈りの男だった。頭に日の丸を染めた鉢巻をしていた。<おかげさまで立派に成長しました、この成長した姿を見てください>と彼は引き締まった笑顔で締めくくった。そして最後は『仰げば尊し』斉唱。
「いまこそ わかれめ いざさらば~」
卒業生たちの泣き声は一層大きくなり、モニターの前で、目に涙を浮かべていたぼくの心にしみわたった。
「さようなら。陽子」
<もう、腰を抜かさないでね>とつぶやきモニターの向こうに消えていった陽子の笑顔をもう一度見たくて、ぼくは動画を食い入るように見ていた。最後にもう一度だけ会って、<元気でな>と無理やり笑みを浮かべて言ってやりたかった。病気なんて治らなくていい。最後の最後まで泣き虫だと笑われても構わない。ようやく白みかけた部屋のなかで、ぼくはあふれ出る涙もそのままに泣いた。彼らは幸せだったのだろうか。ネットでの真夜中の卒業式に、彼らは満足したのだろうか。もう2度と会えない陽子のことを思って、ぼくは涙をこらえることはできなかった。

「メジャー・トランキライザー(抗精神病薬・強力精神安定剤)は、脳内の特定の物質のはたらきを抑えることで、気分を落ち着かせると同時に幻覚や妄想といった症状を軽減させます。また、症状が退いた後の意欲の低下や気分的なしんどさを軽くするはたらきも併せ持つんですね。今度は忘れずに飲んでくださいね」
精神科の医者がぼくにクスリの説明をしていたのは前日のことだった・・・・・・。

おしまい


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