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tetujin282828

Author:tetujin282828
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Gの夏休み
オレは自分で言うのもなんだが、根っからの殺し屋だ。情や感傷なんてものは、そもそも持ち合わせていない。オレの職業は国際的なスナイパー。スナイパーをドイツ語で言うとein Heckenschütze,ロシア語でснайпер, フランス語ではun tireur embusqué,イタリア語でun cecchino,スペイン語でun francotirador,ポルトガル語でvigia,中国語で狙击者というが、韓国語はいま勉強中なのでわからない。
オレがかれこれ30年以上も、超一流のスナイパーとしてやってこれたのは、恐らくふだんの弛まぬ厳しい鍛錬による超人的な肉体と頭脳、精神力によると思っている。狙撃成功率は99.6%以上(第三者の妨害、銃の故障、急病などの偶発的な障害による不調を除けば成功率100%)。この驚異的な成功率から口コミで評判が広がり、依頼者が後を絶たない。こんなオレの完璧な仕事ぶりから、しばしば「マシーン」とも呼ばれている。
そんな完璧なオレだが、実は唯一の今でも克服できない弱点がある。あまり知られていない病気なのだが、ギラン・バレー症候群に似た原因不明の持病で、突然右手がしびれて動かなくなってしまうのだ。この病気が起こった際は、もちろん、危険に対応する能力が低下してしまうので、しばらくの間仕事を休んで各地にある別荘のいずれかで治療のための休養をとることにしていた。
そんなわけで、先月に発症したオレは8月の下山田町にいた。人里離れた別荘から食料品や日用品の買出しに町にやってきた俺の目に、スーパーの店のドアに張られた一枚のポスターが飛び込んできた。
<なになに。毎年8月中旬頃開催される夏まつりと花火大会か。夜店や屋台が多数出店し歌謡ショーや伝統芸能などのステージイベントが行われるだと。花火は20:00~21:00、打ち上げ数は約1500発か。>
殺し屋であるオレは、本来は人ごみを避けるのが常だ。なぜなら、オレは病的に臆病なため、背後に人に立たれたり、唐突に物音を立てられるとその方向に銃を構え、時には発射してしまうという癖があるためだ。だが、この時は魔がさしたとしか言いようがない。まあ、こんな田舎では、突然、襲われても対処できる自信が充分にあるにはあるのだが。いろいろな事情と言うものがあって、オレはこの夏祭りにぶらっと参加してみようという気になっていた。

事情とは、実を言えばオレはある種のジレンマに直面して悩んでいた。オレは、これまでにどんなにコストがかかろうとも、必ずターゲットの眉間を正確に一発で撃ち抜くというサービスを提供することで、高品質・高価格の市場セグメントにおいて高いブランド・イメージを維持してきた。ところが最近になって、はるかにシンプルで、かつ手軽に同様のサービスを提供できる技術として、誰にでも簡単に使えるような超小型のプラスチック爆弾が開発されたのだ。このためオレの市場価値が、危ういものとなってきたのである。顧客がどんどん減ってきちまうのだ。
「イノベーションのジレンマ」の著者であるハーバード大学のクリステンセン教授によれば、このような技術革新による低価格・低品質を特徴とするライバルが市場に参入してきた場合、既存のプレイヤーは、より高価格・高品質のセグメントへ逃げるしかないとしている。つまり、より難しい仕事を、より高額でだ。
オレがビルから飛び降りながら途中階にいる標的の眉間を撃ち抜いたり、建物の屋根に銃弾を反射させて標的の眉間を撃ち抜くなど、ますます困難な狙撃ばかり受注しているのは、このような安価な新しい技術に取って代わられることに焦りを感じているからである。だれもが殺し屋になれるそんな時代が到来しそうなのだ。ならば、いっそのこと、引退を・・・・・・。
そんな折に、スーパーの店のドアに張られた夏祭りのポスターを見た時に、オレは日頃の気晴らしに出かけてみようかなとふと思ったのだった。

境内は献燈の灯りが浮かび上がり、露店も境内一杯に店を出し、民謡踊りも奉納され、山の手に夏を呼ぶ祭りとして多くの参拝客でにぎわっていた。人目を避けるつもりで、黒いスーツでサングラスをつけていたが、どうやら失敗のようだ。まわりは、夏の夜の涼をたずねて、浴衣掛けの親子連れや女子高生たちでいっぱいだ。妙に自分だけが浮き上がってしまっているのが自分でも分かる。
<フッ>オレは自分を納得させた。<確かに浴衣を着れば目立たないかもしれないが、万一の時に動きが制限されるし、なにより、胸のホルスターを隠すことができないし、全身に無数の傷跡があるし・・・・・・。
夕闇の中で夜店の裸電球の優しい灯が通りを照らす。参拝客の流れに身を任せながらぶらぶら歩き、夜店では焼きそばを食べラムネを飲んだ。もちろん、背後に人に立たれないように自分のポジションをまるでゴキブリのようにしょっちゅう移動させていた事は言うまでもない。
そんなオレの背後に、その少女はひっそりと立った。

そんなオレの背後に、その少女はひっそり立った。オレは思わず、その女の子をぶちのめしかけた。いや、正確に言うのなら、オレの背後で肩からかけたポシェットを空ける音を拳銃の撃鉄を起こす音と間違えて、いつもの癖で振り向きざま胸のホルスターに収めたコルトガバメントに手を伸ばしかけて固まってしまった。・・・・・・動かない。右手が動かないのだ。その瞬間に、持病で右手が動かないことを思い出し、左手でズボンのポケットのナイフを握り締めた。
少女は笑っていた。手に大きな綿あめを持った浴衣を着た女の子。小学校、1~2年生だろうか。オレの顔を見て微笑んでいる。
「・・・・・・」
オレはその子と目を合わせないように、体の向きを変えた。こんな平和ボケの日本の山の中で、それでも、背後で少女の立てたささいな金属音に自然に反応する自分が誇らしかった。さすがは超一流と言われるだけの事はある。
そんなオレの左手をその子はつついてきた。オレはまた、反射的に動かない右手で少女をぶちのめしそうになりながら、右手が動かない事を思い出していた。手が不自由だと本当に不便だ。立ちションすら自由にできない。
「おじさん。あれとって」
「・・・・・・」
少女はオレの左腕をとると、夜店の方を指差した。自由の利く左腕を取られると非常に不安になってしまう。
彼女は少し頭が足りないのかもしれない。知らないよそのおじさんに声かけて、さらわれでもしたらどうするのだろう。オレはあたりを見回して、保護者が近くにいないかどうか探した。人通りは相変わらず続き、夜店の列の前を行き来している。しかし、その子の親らしき姿はなかった。迷子なのかもしれない。

迷子であろうその子は、なおも手を引っ張って、「ねえ、あれとって」と指差す。オレは逃げようにも逃げられず、観念してその子の話を聞くことにした。
「用件を聞こう」
「ねえ、あれとってよ」
彼女の指差す方向を見ると、そこには射的の夜店があり、赤い段々になった台の上にたくさんのマスコットが並んで置かれている。そして、夜店の両側には「射的 大当たり」と赤の字で書いた大きなのぼりが立っている。どうやら、彼女はそのマスコットの中の中央に並んだ大きなミッキーマウスの人形が欲しいようだ。
「・・・・・・」
オレは射撃の超一流のプロだ。プロってものは報酬のない仕事はやらない。慈善事業をしているわけじゃないんだ。<ことわる>と言おうとするオレの左手に、いつのまにか水ヨーヨーが握らされていた。
「・・・・・・」
ちょっと待て。オレは超一流の射撃のプロだ。こんな水ヨーヨー一個で、仕事が引き受けられるかあ。女の子は、サングラスしたオレの目を覗き込む。くりくりっとしたかわいい目だ。思わず引き込まれてしまいそうになる。頭は弱そうだが、彼女は大きなったら戸田恵梨香ちゃんのようなミニスカートの似合うギャルになるかもしれない。
何にも言えないまま、射的の夜店に連れて行かれ、店のオヤジからライフルを手渡されてしまった。
こうなったら、やるしかないか。
「おやじ。100発タマをくれ」
「あいやー。タマ100ぱつもないね。全部で40ぱつね。うちおわたら、あと40ぱつだすね」
「・・・・・」
オレは仕事を引き受けた時は、使用するものは全て信頼性を重視して、弾丸は不発弾や精度不良を極力避けるために、100発中ランダムに抜いた80発を試射して全て異常なしなら残り20発を使用、1発でも不良なら全て破棄するという手順を踏むのが常だ。しかし、この夜店には全部あわせても40発しかタマがないらしい。オレはしぶしぶ、40発の代金800円を支払った。
<万が一、ミッキーマウスの人形を打ち落とせなくて、そのことが噂でひろがったらますます客足が遠のくかも>頭に嫌な予感が浮かんだが、オレは頭を振ってその不安を打ち消した。オレの技術を持ってすれば不可能なはずはないと・・・・・・。

オレは中国なまりの日本語を話すオヤジからコルクの玉40発を受け取ると、それを調べた。円柱形をしたその玉は、あちこちに傷がついており、空力的には最悪の形状だった。これで弾と呼べるか?それから、オレは手渡されたライフルの構造を調べた。しかし、しらべるまでもなく、銃身のなかにバネが入っていて、引き金をひくとバネが伸び銃口につめたコルクのタマを押し出して発射されるしくみだ。コルクのタマは1個約5グラム。射程距離は手を目一杯伸ばせはターゲットまで1m。タマの速度を上げれば、50グラム程度のターゲットでも打ち落とすことができるかもしれない。とにかくタマの射出速度の高速化が必要だ。
オレは、ゆるゆるにライフルの銃口にコルクのタマをつめた。日頃、左手でもM16A2ライフル(改造)を扱えるように訓練しているから、特に取扱に問題はない。左手だけでも、おもちゃのライフルは本物の銃よりははるかに軽く、容易に扱えそうだった。
オレは射撃台の前に立ち、ライフルを構えた。右手が動かないので、ライフルを伸ばした左手一本で持ち、照準を合わせる。
風はない。銃口の揺れが収まるのを待って、オレは静かに引き金を絞った。パチン。乾いた音がして、タマが飛び出した。
「あいや。おきゃくさん。どこねらっている?」
「・・・・・・」
横を向いてタバコを吸っていた中国人のオヤジは、側頭部のど真ん中にタマを当てられ、振り向いて笑いながら文句を言った。どうやらタマは1m先の標的で約1cm左下にずれるようだ。オレは2発目のタマをライフルにこめると、もう一度ライフルを構えてタマを発射した。今度もタマはオヤジの側頭部のど真ん中だった。
「あい。おきゃくさん。また、あたたよ」
中国人のオヤジがまた振り向いて文句を言う。こんどはタマはレーザー光線のようにまっすぐに飛んでいったようだ。弾(タマ)スジが定まらない。・・・・・・的に当てるのはむずかしいかもしれない。いずれにせよ、銃口にタマをゆるく詰めた方が、打ち出す速度を上げることができ、その弾道も直線性をあげることができそうだった。弾道を確かめたオレは、こんどはターゲットにねらいを定めた。横向いていたら2発も側頭部にタマを当てられたオヤジは、真剣なまなざしでこちらを見守っていた。オレは静かに引き金を引いた。

パチン。乾いた音がして、タマが飛び出した。タマはミッキーの眉間を正確に捉えていた。が、しかし、ミッキーは少しも位置が変わらなかった。オレはもう一発タマをこめて、今度はミッキーの耳を狙った。できるだけ高い位置へ衝突エネルギーを与える事で、ミッキーをひっくり返せると思ったからだ。パチン。タマが耳に向かって飛んで・・・・・・。しかし、今度は、タマがそれた。どうやら、打ち出したタマは回転していないため、飛翔するタマの周りの空気の流れに揺らぎが生じ、そのためタマが空中でゆらゆら揺れてしまうようだ。つまりは、回転をかけない様にして投げた野球のボールが、バッターの手前で揺れながらストンと落ちるフォークボールと同じ原理だ。これを防ぐにはタマにらせん状の傷をつけてタマに回転を与えるしかないが、傷をつけたりしたら、中国人のオヤジが怒るだろう。
オレは作戦を変えた。名付けてショットガン打撃法だ。オレはありとあらゆる武器に精通しているから、その武器の欠点をすぐさま見抜くことができる。このライフルの欠点は、タマの重さが軽い事。このために弾道が不安定で、的に当っても衝撃力が弱いためターゲットを打ち落とすことができない。しからば、2丁のライフルを同時に撃って、2個の弾がターゲットに衝突するその衝撃を利用する。最悪のばあい、タマの弾道が不安定でも、どちらかのタマがターゲットに当るかもしれない。
「オヤジ。ライフルをもう一丁だ」
オレは、かがみこんだ姿勢で、動かない右手をなんとか台の上に伸ばして固定して銃を構えると、左手でもう一丁の銃を構えた。台が低いため、無理な姿勢になるのでしばらく構えていると腰が痛くなる。弾が2発ともミッキーマウスに当って棚から転がり落ちるイメージを頭に思い浮かべていると、中国人のオヤジが文句を言ってくる。しかし、オレはサングラスをした目でにらみ返し、オヤジをだまらせる。
引き金を引いた。タマは2発とも、狙い通りに同時にミッキーマウスの頭部にあたった。しかし、ミッキーはその場でぴくりとも微動だにしなかった。
<やるな、オヤジ>
どうやら、ミッキーマウスは、棚に接着剤かなんかで固定されているようだ。だから、タマがあたっても絶対に落ちるはずはない。
オレは大きく息を吐くと、ライフルを台の上に放り投げた。オレは見守っていた女の子に、今日は調子が悪いから、明日、かならず落とす旨を伝えて明日の晩会う約束をした。そして、オレは店のオヤジに告げた。
「オヤジ。また来る」
オレはリベンジを誓ったのだ。

頭の弱そうな女の子に、明日の晩、また会うことを約束した。その子は、家が近くのようだ。明日は花火大会だが、この夜店にまた遊びに来ると言う。オレは、指切りをしてその子と別れると、少し離れたところから興味深そうに見ていた若い男を捕まえた。
「おまえ、バイトしないか?」
日本語で話しかけたのに、相手の男は何を思ったのか英語で答えてきた。
「What kind of job are you offering?」
確かにオレは日本人離れした体格と容貌だが、日本人ではないと見抜かれたのははじめてだった。なかなかするどい観察眼をしている。しかし、こんな田舎で英語で会話していたら、人目を引いてしまう。オレはあえて、そいつの英語の問いかけが理解できないフリをして会話を続けた。
<明日の8時ちょうどに、この夜店であのミッキーマウスをめがけて射的をすること。謝礼は10万円。ミッキーを打ち落とせたら、必ずあの女の子を探し出してそれを渡すこと>
金に困っていそうな若い男は、2つ返事でOKだった。なぜ、明日かなどと余計な事は聞いてこない。きっと、なにかその男は勘違いでもしているに違いないが、あえてそれを聞き出そうとはしなかった。オレはその場を離れると路肩にとめておいた車に戻り、街中のビジネスホテルに走らせた。さて、これから忙しくなる。
週末の夜なので、探し当てたビジネスホテルは空き部屋があった。そして、そこのホテルは、望みどおりISDNの接続が可能で、部屋からインターネットにアクセスが可能だった。オレは、自分の無料メールアカウントから、なんどか注文をしたことがある香港の会社へメールした。いつものことで、すぐに連絡はついた。オレの使う銃は『アーマライトM16改造銃』で、元々はフェアチャイルド社のアーマライト事業部製のAR-15であるものの、アメリカ軍制式採用にあたりコルト社が製造権を取得し、アメリカ軍名称のM16として納入したものだ。この銃弾の弾頭部分をシリコンゴムにする。そうすることで、ターゲットを傷つけずに打ち落とすことができそうだ。ただし、いつもの火薬量を使うと、ゴムが焼けるし、弾丸速度が速すぎて、ターゲットを破壊しかねない。だから火薬量をいつもの数分の一にする必要がある。火薬量をどれぐらいにするかはターゲットとの距離にもよるが、火薬量を極端に少なくするとその場合に不発になる確率が増大するから、試行錯誤での調整が必要だ。だから、オレはシリコンゴム製の特注の弾頭を発注した。
なお、注文をインターネット経由でするのは、注文のやり取りをすべて最新の暗号化技術を駆使して送受信できることと、国際携帯電話では、発信記録が漏れてしまうからである。プロは連絡方法として携帯は使用しない。シリコンゴム製の弾頭は、明日の一番のキャセイパシフィックで14:30頃に成田に到着する。弾頭を受け取って、すぐに高速を飛ばせばなんとか夕方ごろまでに帰ってこれるだろう。もちろん、途中で山の中に出て、火薬量を変えて試射を行い、ベストな量を決める。射撃位置は、もう、目星をつけてある。人に見られない林のなかだ。プロに抜かりはない。

そして、翌日。オレは成田空港で、香港の会社の配達人からシリコンゴム製の弾頭をつけた銃弾100発を受け取ると、すぐさま高速に飛び乗り、いくつかのインターチェンジを乗り継いで、人気のない山の中までやってきた。車のトランクからアーマライトM16改造銃を取り出すと、火薬量を1/4に減らした銃弾をローディングした。射程距離は50メートル。木立の間から木に貼り付けた紙の的を狙って試射する。2発を試射したところで、オレは的まで近づいて銃痕を確かめた。同心円を描いた紙の的には、そのど真ん中に2発の銃痕があり、かつ、打ち抜かれた紙の後ろの木の幹にはなんの傷もついていない。シリコンゴム製の弾頭は思った以上に、衝撃が少なそうだった。いつもなら、購入した100発の弾丸の80発を試射した上で残りの20発を実際に使うのだが、日も暮れかけている上、深い山の中とはいえ銃声を聞かれると騒ぎになりかねない。オレは試射を2発のみにとどめて、さっそく夏祭りの会場に向かった。
昨夜と同じように境内は献燈の灯りが浮かび上がり、露店を冷やかす客で境内は大賑わいだった。
昨夜の射的の夜店に着くと、そこには昨日の男がすでに待っていた。オレは小型のレシーバーを男に渡し、男にすべき事を伝えた。話は簡単だ。補聴器型のレシーバーを耳につけ、オレが無線で撃ていったら引き金を絞るだけでよい。打ち落としたミッキーマウスを、昨日の少女を探して手渡す。
オレは、謝礼の10万円の入った封筒を男に渡しながら、以上の説明した。男の話を聞けば、ヤツは無能の会社員で窓際族らしい。暇なので雑文を書いてブログにあげているとのこと。この祭りに来たのも、ブログに書くネタを探してのことらしい。もうすぐオレも、高性能の小型爆弾が使われ出したら個人経営ながら窓際族になってしまうかもしれず、人事ではないような気がして、彼にネタを提供することにした。すなわち、今回の仕事を文章にまとめてヤツに送ることにしたのだ。うまく行けば、宣伝となって仕事の依頼が来るかもしれない。まあ、ヤツとはこれきりもう会うこともないだろう。

時計を見ると8時。花火大会がはじまった。夜空をこがす大輪の花火が次々と打ち上げられた。打ち上げにあわせて、観客たちの歓声があがる。オレは男のメールアドレスを聞きだした上で、男と別れた。あとは、無線で男に指示するだけだ。
オレは大急ぎで、前もって決めておいた銃弾の発射場所に急いだ。境内から50メートル山の上の見晴らしのよい斜面だ。ここから境内の夜店が見通せる。望遠スコープで覗き込むと、先ほどの男がバカ面をこいて道行く若い女を目で追っている。オレは無線で射的の準備をするように伝えた。
オレは花火の音のタイミングを計っていた。花火の音のタイミングで男に指示を出し、射的のコルクのタマを何発か発射させた。花火の発射音のシュっという音に続いて、パっという音がして光が炸裂する。そしてやや遅れてドンと音がなる。この花火の炸裂音にあわせてアーマライトM16改造銃からシリコンゴム製の弾頭をつけた銃弾を発射するのだ。そうすることで、M16改造銃の発射音をごまかすことができる。
スコープから覗いた中国のオヤジは相変わらず暇そうに横を向いてタバコをふかしている。きっと、台に釘付けしてあるミッキーマウスが打ち落とされたら驚いて腰を抜かすに違いない。
花火の打ち上げ音。シュ。ヒュー。続いてパッ。いまだ。男に<撃て>の指示。同時に引き金を絞る。同時に花火の炸裂音がなる。ドン。銃声は、花火の音と完全にシンクロした。スコープで覗くと、ミッキーマウスは台から打ち落とされ、オヤジが驚愕の目で男を見ていた。
そして、スコープの視野に昨夜の女の子の姿が入ってきた。女の子は何かを言おうとしている。
「おとうさん、焼きそば買ってきた」
女の子の声が、オレの耳に着けたレシーバーから聞こえてきた。中国のオヤジに、女の子が焼きそばを渡している。
「・・・・・・」
昨日の女の子はサクラだったのか・・・・・・。
オレは、すぐさま女の子にアーマライトM16改造銃の照準を合わせて、フッとため息をついた。しびれて動かない右手が痛む。このシリコンの弾頭だったら、当っても青あざを作るのが関の山だ。依頼人の裏切りには、強い姿勢で対応するのが常だが、オレはやめた。急に馬鹿らしくなってきたのだ。

世の中には、奇特な人もいるものである。何が奇特かというと、ちょっと変わった頼み事をされたのだ。
「ブログに書いて欲しい」
とこう言うのである。
実は、会社の女の子から
「ブログに書かないで欲しい」
と言われた事はあるが、書いて欲しいとの依頼ははじめてだった。
しかも、それを言ったのは、国籍不明で正体も不明のGと名乗る中年の男だった。真夏だと言うのに、黒っぽいビジネススーツを着て夏祭りの夜店を冷やかしていた。男は恐ろしく金離れがよく、ネタを提供した上で、10万円をキャッシュで支払うとのことだった。
「Gと呼んでくれ」
「自慰か?」
「ちがう。Gだ」
「わかった。爺。アンタが送ってくるメールをブログに載せればいいんだな」
そう、上の文書で窓際族の会社員とあるのが私のことだ。なんと、ジイは英語で原稿を送ってきた。そのまま、ブログに転記しようと思ったが、たぶん、英語のままだとだれも読んでくれそうもない。そこで私が翻訳したのが先の文章だ。できるだけ正確に訳したつもりだが、理解できないところは意訳してある。というよりも、かなりの部分に脚色を施した。ジイの私への依頼の目的は、推察するに彼の特殊技能の宣伝をしたかったのだろう。ジイの話が本当なら、確かにすごい腕だと思う。花火の音に合わせて、一発でミッキーマウスと遠くから打ち落としたのだから。もしも、タマがそれて、私の後頭部に当っていたらと思うとぞっとするが。
ジイは状況によっては、あのような小さな女の子の依頼まで引き受けるらしい。そして一旦引き受けたら、徹底的に仕事をやる。
まあ、今回は依頼人がサクラだった。つまり、依頼人にだまされたということらしい。
普段は、依頼人の裏切りは絶対に許さないらしい。どうだろう、こんな彼だが、だれか興味のある人はジイに連絡をしてあげてほしい。仕事が減ってきているみたいだ。紹介料はいらないが、うまく事が進んだ場合に、そうしたコメントをもらえたらチョー嬉しい。メールのアドレスはgを13個並べて・・・・・・(ry。

おわり
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